
BBSブログでは、共同研究先である長岡技術科学大学・北條研究室の研究者の皆様のご理解・
ご協力のもと、安全に関する研究をわかりやすくお伝えしています。
今回は、中野広基様が「第57回安全工学研究発表会」で発表された
「機械安全におけるリスクアセスメント手法の医療機関への活用に関する研究」
からお届けします。アトリエ森田がお話を伺いました。

本日は、よろしくお願いいたします。
まず初めに、この研究の目的について教えてください。

医療機関で生じた医療事故やヒヤリ・ハット事例は機関内レポートとして報告され、
対応策が共有されています。しかし、そのほとんどが医療従事者の注意力に依存した
再発防止策になっているのが現状です。
医療従事者の負担を考慮すると、この方法では限界があることが見えてきました。
そこで私たちは、特に医療機器を扱う機会が多い看護師を対象に、新たなアプローチを模索することにしました。

医療従事者の注意力に依存した再発防止策とは、
具体的にどのようなものでしょうか?

例えば、点滴の際に使用する医療機器にチューブが逆向きにセットされていたというヒヤリ・ハット事例がありました。チューブが逆向きにセットされると、治療に必要な薬液が正確に投与できないだけでなく、患者さんの血液を体外に引いてきてしまうことも起こりえます。
この事例の報告書では、個人または部署で「チェックリストを作成する」「複数人でのチェックを行う」などが再発防止策として挙げられました。

なるほど……。
確かに、医療従事者の方の注意力に依存した再発防止策になってしまっていますね。
実験についてお伺いしますが、どのような実験を行われたのですか?

機械安全分野で広く用いられている「リスクアセスメント」や「リスク低減方策」の
考え方を医療分野に適用しました。この方法は、潜在的なリスクを体系的に評価し、
具体的な改善策を見つけ出すものです。私たちは看護師向けにこれを説明・実践し、
従来の方法と比較しながら、その効果を検証しました。

お話に出てきた、「従来の方法」について教えていただけますか?

私が以前所属していた病院では、ヒヤリ・ハット事例が発生した際、所属部署から医療安全の専門部署に報告書を提出しておりました。
この報告書は当事者によって作成され、ヒヤリ・ハットが生じた状況の分析や再発防止策の立案などが記載されています。しかしながら、「自分が気を付けていれば…」という考えに基づいた再発防止策が挙げられることが多く、結果として業務負担が増えてしまう傾向にありました。
リスクアセスメントでは問題の根本的な原因を分析し、システムレベルでの改善に焦点を当てており、医療現場との考え方の違いを強く感じました。

現場で適用の可能性については、いかがでしたか?

教育や時間的なコストなど課題もありますが、初めて実践する内容にも関わらず、
「自部署でも進めてみたい」などの声もあり、リスクアセスメントに関して興味を
持っていただけたのではないかと感じています。

最後に、今後の展望について教えていただけますか?

医療現場におけるリスクアセスメントの普及を目指しています。また、他の職種や領域にも応用できる可能性を模索中です。
患者さんにより安全な環境を提供するため、引き続き研究を進めていきます。

今後の研究の進展が楽しみです。
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

中野 広基(なかの こうき)氏
1990年茨城県生まれ。
工学部を卒業後、医療系専門学校に入学し臨床工学技士免許を取得。
病院での臨床業務を経験し、医療職種養成校の教員となる。
機械安全の考え方を医療現場に適用できないかと考え、長岡技術科学大学院に入学、現在に至る。
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